リンダグラットン著『ライフシフト』を読んで②

 

有形資産(簡単に言うと、お金)の形成を助ける点で無形資産の形成が重要である事について

 

グラットン氏は家族、友人、知識や健康を「無形資産」として捉え、これらは管理すべき人生の「資産」だとしている。

無形資産が重要だというのは、働きすぎの日本人には耳が痛いニュースである。

毎日長時間、週末も仕事をしている日本人は有形資産の形成は得意であっても無形資産の形成に投資できる時間がとても少ないのではないだろうか。

 

『ライフシフト』ではハーバード大学の『グラント研究』を引用し、

1938-1940年の学部生を75年間にわたり追跡調査をした結果、人生に満足している人に共通する際立った一つの要素は生涯を通じて強力な人間関係を築いている事だった。

幸福を支える支柱は「愛」と「愛をないがしろにしないで済む生き方」である。

としている、続いて『イースタリンのパラドックス』も引用し、

豊かな人ほど幸福度が高いが、幸福度は所得に比例しない。

国が豊かになってもそれに比例して国民の幸福度が高まるわけではない。

とし、有形資産以外の要因が人々の幸福度に貢献している事を指摘してる。

 

幸福度と所得が比例しない点については、メルボルンに住んでいると頻繁に実感させられる。オーストラリアは不動産バブルの真っ只中で、正社員のサラリーマン夫婦が1億円もする住居をどんどん購入している。聞くところによると、毎月収入の半分以上がローンの返済に充てられ、共働きでないと家計が回らない状態だ。

 

夢のマイホーム購入が家族の幸福度に直結する場合はいいが、正社員で働く母親に本当はこんなに働きたくない、もっと子どもと過ごしたいと泣きつかれたりすると、「1億円の家を売って、安い家を買いなおせばローンの負担も軽減するんじゃないか。」と言ってしまいそうになるが、それは彼女が最善だと思って決めた事であるから尊重したいと思って何も言えないでいる。

 

所変わって日本でも毎日家族のために一生懸命に有形資産獲得をしようと働いていた男性が、定年してみたら家に居場所もなければ友達もいない、無形資産がほぼゼロの事態に陥っている話をよく聞く。無形資産のない状態=「孤独」は喫煙よりも寿命を縮め、人間関係の失敗を経験するとギャンブル中毒やアルコール中毒になる確率が通常の人の2倍になるという研究結果もあるくらいに「人間関係」の健全さは健康に直結する問題である。

100年人生を健康的に全うしたいのであれば、誰もが今からでも友達を作っておいた方がよい。

 

かくいう私も生来の仕事中毒気質があり、一旦取り掛かるとどこまでも一人の世界に入れてしまうので、子育てをはじめてから子どもにゆっくりとした時間の過し方を教えてもらうまで、いつも定期的に友達関係をメンテナンスする事の必要を全く分かっていなかった。

 

日本では勤勉は美徳であり仕事は「聖域」であるので、なかなか仕事中毒に対して批判がし難い。仕事をしている限り、どれだけ遅く帰ってこようが、家事をパートナーに丸投げしようが文句を言えないし、むしろ文句を言う方が批判に晒される状況でさえある。一生懸命に仕事をして無形資産の形成を怠ったとしても、「仕事」に守られているために批判はされない。

 

オーストラリアの文化では仕事中毒は「悪」だ。仕事ばっかりしていると深みのないつまらない人間とみられるだろう。有形資産と無形資産のバランスの点で両国を比べると、オーストラリア人に軍配があがる。

仕事はあくまで人生を豊かにするための手段であって、目的ではないという態度のオーストラリア人は非常に多い。正社員であれば年4週間の有給をしっかりととる。週末や休暇中に仕事先から電話がかかってくる事は余程の事がないかぎり有り得ない。

 

しかしながら、とても興味深い事にこの「仕事」に対するスタンスの両極端な両国は皮肉にも2008年の世界の長寿ランキングで1位(日本)と2位(オーストラリア)にランクしている。http://www.aihw.gov.au/WorkArea/DownloadAsset.aspx?id=6442453674

 

両極端に見えるこの両国の現状をより深く理解すると、無形資産と有形資産のバランスのとれた人生を送るためのヒントが見えてくるかも知れない。

 

また長くなってしまったので、

** 誰でもネットで調べ物が簡単にできる時代では経験学習の重要性が高くなる事

については リンダグラットン著『ライフシフト』を読んで③へ続く。