「政治的正しさ(Political Correctness)」の危険性

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  • 同性婚国民意見調査とホームスクーラー

完全に侮っていた。

今回は3人目の妊娠なのだが、上の二人の妊娠中のつわりはここまで酷くなかった。

ここ4ヶ月朝から晩まで食べようが食べなかろうがずっと気持ちが悪く、毎日ほぼ廃人状態の中、ホームスクールの勉強も中々時間がとれなかった。長女は私が廃人期間中は勉強しなくていいのでラッキー程度にしか考えてないだろうけど、さずがに4ヶ月もルーティーンが崩れると習慣付けていた毎朝の勉強を再開しようにも長女とひと悶着もふた悶着もあり、改めて毎日の習慣づけは大切だと痛感させれた。

 

そんなホームスクールもブログも小康状態の4ヶ月の間に、私達ホームスクールグループにも影響を与える全国的な「事件」がオーストラリアではあった。

 

事件は同性婚の是非について国民の意見を問う「調査書」が全国の有権者に送付された9月中旬に始まった。各メディアは「調査書」を「Vote」(投票)として報道しているが、実際には「Survey」(調査)であってこの調査の結果によって同性婚の即合法化とはならない。実際に調査書の送信者はオーストラリアの統計局で、選挙管理局が管轄の国政選挙とは性格を異にしているし、国政選挙のように投票棄権で罰金が課せられる事も今回の「調査」ではない。

にも関わらず、今回の「調査」の国民の関心は相当に高く「調査書」が9月半ばに送付されて以来、10月10日の時点での「調査書」の返却率は62%にも及んでいるという。

(Gay marriage: ABS reveals latest figures on how many have voted in SSM survey

 

*このブログを書きかけでまた体調不良で1ヶ月以上放置していた間に、投票期限が過ぎ、最終的な投票率は79.5%にも達したそうだ。(Australian Marriage Law Postal Survey)

 

ホームスクーラーの保護者の中でも、例外なく今回の件についての関心は非常に高い。いや寧ろホームスクーラーだからこそ関心が高いのではとさえ思える。ホームスクーラーは課外授業やイベントの参加者との連絡に、フェイスブックを多用するのだがその中で自身の立場を主張している保護者に目をやると、同性婚に賛成「Yes」派と反対「No」派はホームスクーラーコミュニティでは半々くらいなのではと感じた。

 

もともとホームスクーラーコミュニティーが無宗教で非常にリベラルな家庭とその正反対のカトリック、キリスト教系の保守派メンバーの混合で成り立っているため思想の正反対のもの同士が、子どもの将来という共通の利益のためにコミュニティを形成している所に無理があったのか、結論から言うと、今回の「調査」をきっかけにしてメルボルンにいくつかあるホームスクーラーコミュニティーの一つは「Yes」か「No」かの意見の相違による誹謗中傷合戦の末に空中分解してしまった。

 

私は学生時代の教訓から政治的立場は表明しない事にしているので、今回の誹謗中傷合戦中はただの傍観者だったし、コミュニティーの空中分解以後は比較的小さなコミュニティーがいくつかフェイスブック上に形成されたので、長女のホームスクールの行事についても新しいコミュニティーで継続していく事ができるので実害はほぼなかったが、誹謗中傷合戦の当事者の多くが感情的になり、小学校低学年の言葉で言えば「あなたとはもう絶交よ!」という結果になっている。

 

日本では政治的信条の違いで国が分断されるほど国民側が政治に関心を持っていなさそうなので、こういった事件は一般市民レベルでは発生しにくいのではないか。もっとも、今回は「Yes」のリベラルにとっては政治的信条に関わる問題かもしれないが、「No」派のカトリック、キリスト教系の保守派にとっては宗教の問題であろうから、そもそもこの話し合いのための土台が二派では全く別次元過ぎたのかもしれない。

 

  • 同性婚賛成派と反対派の背景

ホームスクーラー内の同性婚の話になってしまったが、実際に賛成派と反対派はどのような人間で構成されているのかは以下のHousehold, Income and Labour Dynamics in Australia (HILDA) Surveyの結果に見ることができる。

www.abc.net.au

 

簡単にまとめると、同性婚賛成派の傾向としては都市部に住んでいて、女性が多く、無宗教、高学歴、高収入の白人中流階級が多い傾向にあり、反対派は主にカトリック、キリスト教、その他の伝統的な信仰を持っており、非白人家庭が比較的多いとHILDA Surveyの結果が出ている。これはホームスクーラー同士の喧嘩の当事者をほぼ言い当てている。

 

「喧嘩」と言ったのは、正直をいうと今回の件で賛成派に回ったリベラルな高学歴、高収入の中流階級であるはずの層が本件を語る際に全くそのような経歴に見合うような建設的な態度で感情的にならずに議論を交わす事ができなくなっているのを目の当たりにしたからだ。どちらかというと宗教的な価値観に基づいた同性婚反対派の方がHILDA Surveyの傾向からして感情的な議論を進める様子の方が私にとっては想像しやすかったのだが、現実には反対だった。賛成派のリベラルな層は「同性婚支持原理主義」ではないかと思える攻撃性を持っていたし、主張も公に堂々としていた。

 

  • 「政治的正しさ」に守られた賛成派の主張

賛成派がここまでオープンに態度をできた原因のひとつを、その主張が「政治的正しさ」に守られていたからではないかと私は思っている。日本を離れて8年近くなるので、日本の事情には疎いが少なくともオーストラリアでは「政治的正しさ」は誰にもその価値を疑いようのない、議論の余地のない「正義」のような扱いだ。

アメリカでも最近のGoogle社員が性差別的な「政治的に正しくない」思想を持っていたために解雇されたニュースからも欧米社会がいかに「政治的正しさ」を重視しているかがわかる。「政治的正しさ」を信仰しないものは「正義」に挑戦しているまさに「悪者」扱いだ。

ホームスクーラーコミュニティで同性婚反対派を攻撃して人間関係を断ち切ってしまった人達と、Googleの社員解雇の本質は全く同じだ。

 

この状況は非常に危ない。「政治的正しい」とされる思想は同性婚賛成、中絶賛成、男女平等、人種差別をしない事に限らず沢山あるが、これらの主張が多数派を占めると反対派(少数派)は自らの立場を主張できなくなる。主張すれば即座に「悪者」扱いだ。

今回のSurveyでもそれが起こっていた。同性婚反対派は「悪者」になるのを恐れて黙り込んだ。わざわざ税金を約100億円も投入してSurveyをしたのは、国民の意見を表明できるようにする目的であって、魔女狩りではないはずだ。にも関わらず反対を主張する事が「政治的に正しくない」空気を読んだ反対派は強く意見を主張できなかった。

 

  • 「政治的正しい」主張をする事の盲点

今後もオーストラリア社会がますます多様化して行くにあたって、様々な政治的、思想的ジレンマを経験する事になるだろう。そのときに、多数派が支持する意見を「政治的正しい」意見としてラベリングしてしまえば、反対派は意見を言えなくなってしまう。それでより良い社会がつくれるだろうか。

もともと同性婚に賛成しているリベラル派は少数派の「同性愛者」の権利を守ろうとしていたのではないか。だとしたら、「政治的に正しくない」意見を持つ少数派を自分の思想、意見と合致しないからといって攻撃する行為そのものが矛盾しているとは思わないのだろうか。

 

いままで書いてきた賛成派と反対派の攻防はあくまで私の身の回りで起こった事で、もちろん中には私が目にしなかっただけで、攻撃的で無礼な反対派も多数いただろう。なので、賛成派だけを非難するつもりは全く無い。

ただ、「政治的正しいこと」を主張する側の人間は現代社会においては多数派の大衆の意見に守られた圧倒的な有利な状況下で主張をしている事を知った上で議論をして欲しいと思っている。

 

多数派の意見が通る民主主義に慣れてしまった私達には、「政治的正しさ」はとても受け入れやすいコンセプトだが、多数派がいつも正しいと限らない事は歴史が何度も証明している事も頭のどこかにいれておくべきであろう。